Vol.1
3つのヴィンテージが
火花を散らす、
酸というエネルギー。
農口尚彦研究所 杜氏
1932年、石川県能登町に杜氏一家の三代目として生まれる。16歳から酒造りの道に入り、27歳という異例の若さで石川県「菊姫」の杜氏に就任。能登杜氏四天王の一人として一躍有名になる。
農口が業界に与えた影響は大きく、戦後失われつつあった「山廃造り」を復活させ、「山廃」復権の立役者となる。また、いち早く「大吟醸酒」を一般市場に紹介し、「吟醸酒ブーム」の火付け役ともなった。
全国新酒鑑評会にて連続12回、通算27回の金賞を受賞。2017年から農口尚彦研究所の杜氏に就任し、現在に至る。
元サントリーチーフブレンダー(現:サントリー名誉チーフブレンダー)
1949年山梨県生まれ。1973年サントリー株式会社に入社後、山崎蒸溜所勤務を経て1999年チーフブレンダー、2014年名誉チーフブレンダーに就任。
手掛けた「響 21 年」や「山崎 50年」などのプレミアムウイスキーは世界的に高く評され、2010年には国際スピリッツコンクールにおける「ディスティラー・オブ・ザ・イヤー」を日本のウイスキーメーカーとして初受賞。
さらに世界で限られた人だけが受賞するウイスキーの殿堂「ホール・オブ・フェイム」に日本人として初めて名を連ね、ジャパニーズウイスキーの歴史を切り拓いた。
「夢造(ゆめづくり)」は、世界に通用する日本酒を夢見る杜氏 農口尚彦が、酒造りを通じて社会に貢献することを目的としたプロジェクトです。
農口尚彦研究所が熟成庫で大切に保管した、伝統的な山廃造りによって醸された5種類の酒米からなる7年分のヴィンテージ群の中から、 9種類の原酒を選び抜き、絶妙なバランスで調合したブレンデッド日本酒です。
農口尚彦の日本酒は熟成に適した造りが特徴で、だからこそ良い意味での複雑さを持っています。それを複数掛け合わせることでさらに複雑化し、ブレンディングによって旨みや甘み、酸のバランスを整え、新たな味わいを生み出しました。
ブレンドは同銘柄の酒、同品種の酒米で、という業界の慣習からの一脱は、市場に良き風穴をあけるかもしれません。
山廃造りという酒母造りの手法で醸された酒。この山廃造りは、農口尚彦の長年の酒造りを象徴するものの一つで、若き日の農口が京都へ通って3年がかりで習得した技術がベースとなっています。
伝統的な手法ゆえリスクが高い上に手間も時間もかかりますが、それでも農口尚彦が目指す味わいはこの山廃造りが大きな核となります。
濃厚でありながらスッとしたキレのある喉越し。それは60年前、農口尚彦が山間部という地域の中で消費者の声を聞き、その特性を文化的なテロワールとして解釈することで目指す味として確立されてきたものです。
Vol.1は未来へのエネルギーに満ちた1本。ペアリングは「酸」というエネルギーで料理をリードしていく方向性。
Vol.2では、時間軸が加わり、多層的な旨味が調和の極致ともいえる1本。ペアリングは「重層的な旨味」で料理を包み込み、完成された世界を創ります。
まるで真冬の朝のような張り詰めた透明感と、縦に一本通ったシャープな酸が印象的。ライムや青リンゴのような清涼感が先行し、口の中をリフレッシュさせてくれる、快活で動きのある立ち上がり。この温度帯では、日本酒の持つ鋭い酸を、カボスの柑橘感でさらに引き立てるような「カボスと岩塩で味付けした真鯛のカルパッチョ」と合わせたい。タイトな質感が白身魚の繊細な脂を美しく切り、口内をリフレッシュさせてくれるペアリング。
冷たい温度帯でもなお、液体そのものが持つ「密度の濃さ」を感じさせてくれる。白桃のような穏やかな甘やかさがあり、酸は液体に溶け込んで角が取れている印象。まるで静かな湖面のように、奥行きのある静謐な立ち上がり。この温度帯では、密度の高い甘みに合わせ、帆立の甘味と果実のニュアンスを同調させるような「桃を合わせた帆立のタルタル」と合わせたい。日本酒のシルキーさが、滑らかなテクスチャーの料理を優しく包み込むペアリング。
複数のヴィンテージが互いに火花を散らすような、心地よい緊張感がある。炊き立ての米のような力強さや、ハチミツのコクが代わる代わる現れる。躍動感のある旨味が印象的。心地よい緊張感のある日本酒には、肉の鉄分やスパイスがよく合う。「マスタードを添えたパテ・ド・カンパーニュ」と合わせたい。マスタードの刺激が日本酒の躍動感と共鳴し、素材の力強さを引き出すペアリング。
驚くほどシームレスな印象で、ブレンドされた9種類が完全に一体化した「黄金のバランス」。杏子やナッツの複雑な香りが口の中で優雅に横へと広がっていく。アッサンブラージュの一つの完成形を感じさせる温度帯。複数年の熟成が溶け合うこの日本酒には「燻製した鴨のロースト」を合わせたい。穏やかな燻製香が完璧にフィットし、アッサンブラージュによる複雑さが、鴨の滋味深い脂とゆっくり溶け合うペアリング。
温度が上がると、山廃特有の乳酸の表情がドラマチックに変化していく。芯にあった強い骨格がふわりと解け、溶かしバターのようなクリーミーな質感に変わる。チャーミングで、飲み手を優しく包み込むような親しみやすさが顔を出す温度帯。温度で解けたクリーミーな質感に「ヴァン・ブラン・ソースで作られた白身魚のポワレ」を合わせたい。日本酒の持つ「抱擁力」がソースのコクと一体化し、口当たりをさらに官能的に変えるペアリング。
「時間の厚み」を感じる温度帯。コンフィチュールやドライフルーツを煮詰めたようなリッチな凝縮感。圧倒的な包容力の中に、熟成由来のスパイス感が深みを与え、味わいの解像度が一段上がったような感覚を覚える。熟成由来の凝縮感が爆発するこの温度帯には、甲殻類の旨味や長期熟成チーズの深みが対等に渡り合う。「オマール海老のビスクや濃厚なコンテチーズ」と合わせたい。時間の重なりが生む芳醇さを堪能するペアリング。
眠っていた野生味が呼び覚まされるような、最も力強さが際立つ温度帯。煎り糠やドライハーブのような香ばしさが立ち上がり、鋭利な酸が再びエネルギーを持って垂直に突き抜けてくる。脂の強い肉料理やジビエを真っ向から受け止める、強靭なパワーが宿っている。再燃する野生的な酸を、クセのある肉と味噌の力強さにぶつけるように「猪肉の赤味噌煮込み、または仔羊のグリル」と合わせたい。日本酒のエネルギーが料理の野性味と渡り合い、喉を通る瞬間に爽快なキレを生むペアリング。
熱を加えてもエレガンスが全く崩れない。香ばしさと旨味の濃度が最高潮に達するが、それは暴力的な強さではなく、どこまでも深い静寂を伴う余韻。喉を通った後も、幾重にも重なる香りの余熱が消えない。まるで「瞑想」を誘うようなフィニッシュへと連なる。熱を加えても崩れないエレガンスを、トリュフの土っぽい香りと熟成肉の旨味で昇華させるように「トリュフソースの熟成牛ステーキ」と合わせたい。無限に続く余韻の中に、肉の甘味がいつまでも漂い続けるペアリング。
※売上の一部は復興の義援金になります
2023年12月、京都にて文化庁長官表彰の授賞式が行われました。そこで杜氏・農口尚彦は、世界的に著名なウイスキーブレンダーである輿水精一に出会います。
年齢もジャンルも異なりますが、二人は長年にわたりアルコール飲料の業界に従事し、それぞれの分野を牽引してきた職人です。会話を交え、意気投合するまでにそう長い時間はかかりませんでした。
二人の出会いは思いがけないものでしたが、
これから何かが動き出しそうな予感がする時間となりました。
それから程なく、
2024年1月1日に石川県能登を震源とする
能登半島地震が起こります。
能登は農口尚彦の生まれ故郷であり、自宅のある能登町も大きな被害を受けました。発災当時、農口尚彦は酒造りのため小松市の酒蔵にいたことで身体は無事でしたが、生まれ育った大切な地の、形あるものだけではないあらゆるものが壊されていく姿に心を痛めていました。
時を同じくして、地震の報道を受け、先月出会ったばかりの杜氏の状況を案じていた輿水精一。さらに、自身も能登のために何かできないだろうかと思うようになりました。少しずつ能登の状況が変化していく中で、
農口尚彦と輿水精一は再びつながりを持ち、互いの思いを確かめ合います。
能登復興への長い道のりに寄り添うものを、
この業界のプロフェッショナルとして、自分たちのできることは何なのか。
そして、二人は日本酒を創るという決断をしました。
能登杜氏 農口尚彦の中に宿る奥深い能登の日本酒文化と、
名ブレンダー輿水精一の技術によって、新たな日本酒を生み出すことができるはず。
その思いから立ち上がったのがこのプロジェクトです。
大地震から時間が経った今も、被災地の復興はまだ道半ば。
この売上の一部は能登半島地震の復興支援義援金となりますが、それだけでなく、この日本酒を手にした皆さまが、
能登を想い、能登を感じてもらうことで、皆さまの心の中に能登復興の灯を宿していただければと考えております。
そのための私たちの使命は、
心に残るほどの美味しい酒を造ることです。
夢造は、手に取ったお客様が能登の自然の雄大さや優しさを感じられるようにデザインされています。ラベルは、能登唯一の和紙工房「能登仁行和紙」にて手漉きされた、能登産珪藻土を混ぜ込んだ和紙。その上には、躍動感のある「夢造」の題字が踊ります。
「夢造」とは、夢を重ねて生涯最高の酒を造るという、農口尚彦の酒造りに対する精神を表した言葉です。長きにわたり大切にしてきたこの言葉を、本プロジェクトの意味合いや日本酒の味わいのイメージと重なる題字の中から選び出しました。
重厚感のあるボトルは、農口尚彦研究所のオリジナル。紫外線を通さないほどに分厚く重厚なボトルは、輿水精一と農口尚彦が奏でるハーモニーをさらに熟成することに適しています。
石川県能登半島の輪島市に工房を構える能登仁行和紙。3代目である遠見和之が開発した土入り和紙は、漉かれた紙の中に土の小さな粒が浮かび上がる、味わい深い手漉き和紙です。普段から能登ならではの手法で、野花や木皮など能登の自然をまるごと漉く独自性の高い工房として知られ、今回漉いた珪藻土も能登の土。
この地には「能登はやさしや土までも」という、地域の人の温もりや農の風土を表した言葉がありますが、この和紙に触れると能登の美しい風景が目に浮かび、その言葉の意味が分かるような気がします。
目を奪われるような「夢造」の題字は、サントリーウイスキーの「響」や「知多」の書でも知られる荻野丹雪が手掛けました。農口尚彦と輿水精一が造った日本酒を「夢造」という言葉として荻野が様々な角度から咀嚼し、想像を膨らませることで生まれた文字造形や線質。凛々しくもあり、時に躍動的にも見えます。この夢造に携わった数多くの作り手の思いがこの二文字に表されているようです。クラフトマンシップの集結を、この題字にのせて、広く愛される日本酒へと羽ばたいていくことを心から願っています。
2017年、石川県小松市の山間部・観音下町に誕生。
「酒造りの神様」の異名をもつ杜氏 農口尚彦の技術・精神・生き様を次世代へ継承することを理念に掲げ、伝統的手法に最新技術を加えた酒造りをおこなっています。
農口尚彦自身も、70年以上にわたり酒造りの研究を進め、一時失われかけた山廃造りの復活や吟醸酒ブームに貢献するなど、日本酒の文化継承と高みを目指す新たな挑戦を大切にしてきました。
その信念を継承し、豊かな自然に寄り添いながら日本酒文化の発展と地域との共生を目指しています。近年は酒造りのみならず、伝統工芸や日本文化を守り継ぐことをモットーに様々な業界とのコラボレーションも展開。
日本で独自に発展を遂げ、脈々と受け継がれてきたものの素晴らしさを日本酒というフィルターを通して伝えています。